皆さんこんにちは、如何お過ごしでしょうか。
本日は細工の美の番外編として、桃山期の古備前四耳壷をご紹介したいと思います。
今回は古備前の大ファンである曽我 尭先生を招いて、作品について解説して頂きました。
桃山期の備前の壷擂鉢甕は大変な人気商品であり、効率のよい生産を常に模索していたようです。
そのような中で見せるちょっとした工夫に職人の美意識、細工の美を見ることが出来ました。
(古備前の焼成方法や土は諸説あり、今回は曽我先生の独自解釈に基づいたものになります)
正面から見える玉縁の一部に削げの修復跡がありますが、大変状態の良い四耳壷です。
「造りについて」
川口:では曽我さん、造りについて教えて頂けますか。」
曽我:分かりました。まず古備前の代表的な作り方ですが、二種類の作り方があります。
筒輪積みと輪積みと呼ばれるものですね。
川口:なるほど、これはどちらになるんでしょうか。
曽我:そうですね、こちらの作品は恐らく筒輪積みが主体ではないでしょうか。
粘土を棒状にして重ねていく、ある程度行くと蹴轆轤を回して繋いでいく。
そして轆轤の回転によってこの独特の膨らみを出していって、
それらを数回繰り返して首の手前まで立ち上げます。
恐らくそこから一回首周りを切って、新たに積んで最終的な口縁部分まで作っていますね。
川口:一旦成形を止めて切るんですか。
曽我:そうすることで首までの中心のブレは関係なく、とてもバランス良く首を作る事が出来ます。
川口:なるほど、玉縁と呼ばれる独特の口縁作りといい、その下の肩の張り出しもとても力強くて良いですね。
力強い張りの中に轆轤目が残っています。
曽我:はい、この四耳壷はとくに肩の力強い張りがとても素晴らしいですね。
しかも肩の肌をよく見て下さい。轆轤の目が残っていますね。
肩から下は成形後に轆轤の目を消すように箆で削っています。
川口:本当ですね。小石の動いた跡があります。
小石の擦れた跡があり、乾燥後に轆轤目を消すように箆削りしています。
曽我:実はこれには耳付けが関係してきます。
この耳は一旦乾燥してから付けたものではなく、恐らく成形時にそのまま貼り付けています。
口から手を入れて耳の裏を触ってみると僅かに接着時の感触が残っています。
花入の耳などもそうなんですが、乾いてから付けると駄目ですね。
柔らかい時に付けないと良い形にはなりません。
なので耳を付けた時の轆轤目はそのまま肩に残されるということです。
川口:なるほど、それは知りませんでした。
この耳は吊るす時に使用するものですか。
曽我:そうですね、これはきっちり穴が空いているので使えるようにしていると思います。
四耳壷等は大型のものは軒下に吊るすように、
小型のものは中に持って入るように区別されていますね。
ネットリとした土味の耳は濡れて柔らかな状態で接着しています。
川口:ではまとめると筒輪積みと呼ばれる、紐作りと轆轤を併用した技法で胴を作る。
肩口で一旦止めて箆で切って、また新たに積み直して口まで作る。
その後、柔らかな肌のまま耳を素早くつけていく。
曽我:そうです、なので轆轤から切り離した時にはほぼこの形で切り離されていると思います。
そしてある程度乾燥させて底部と肩口まで削りを入れていますね。
それによって本作の肩の美しい張りと胴の美しい曲線が生まれています。
実用品であってもこれだけ美しいものを作るのは職人の腕が良かったのでしょうね。
底部と肩にCCのような陶印が入っています。
「土と焼きについて」
川口:では次は土と焼きについて教えて頂けますか。
この時代は備前の黄金期で大量の注文があったと聞きます。
大きな窯で効率よく生産していかねばならないという時代背景があったと思います。
曽我:そうですね、古備前というのは時代時代のニーズによって土や窯を変えています。
窯というのも今のような窯ではなく、備前と同じ土で出来た言わば「巨大な焼き物」だった訳です。
そこで土を焼くということの中で備前独自の進化が見えてきます。
川口:なるほど、本作の土はどのような土を使われていると思いますか。
桃山期であれば田の底の土のヒヨセへと切り替わったのではないかと思いますが。
曽我:そうですね、これは恐らく田土と山土の混合ではないかと思います。
田土の甘い焼きの中に山土のざっくりとした味わいが見られますね。
室町期は台地の土や山麓の土を使っていたと言われますが、
やはり陶工のそれぞれの裁量に任せて土作りをしていたのではないかと思います。
田土はコシがあって使いやすいですが、室町期の作品のように焼きこむことは出来ません。
室町期のものはやはり焼き込みがすごくて肌もツルツルになっています。
田土を使っている分そういった焼き込みが出来ないので色々と造りに細工をしたのではないでしょうか。
鉄分の噴出と夕焼けのような見事な緋色は圧倒的です。
川口:焼き込みは確かに軽くなっていますね。
曽我:はい、ですのでこのように藁を被せて焼味に工夫を出しています。
藁が溶けたビードロが見えますので、窯に置く際にたっぷりと藁を被せています。
実用性だけ見れば何の意味も成さないのですが、ここに陶工の美意識が感じられますね。
川口:全国から室町桃山の備前の陶片が出土していることもあり、
当時は大変な人気商品で急いで生産する中で、形や焼きに工夫を見出していますね。
色々と面白いことが分かりました。ありがとうございました。
(桃山時代 古備前四耳壷/古備前鑑定委員会鑑定書付き 箱別途制作)
size:径25.7cm×高さ30.8cm price: 売約済
※口縁部に5cm程度の削げの修復が有り、詳細な画像を送付出来ます。
作品の詳細な画像などは下記までお問い合わせ下さい。
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