
皆さんこんにちは、いかがお過ごしでしょうか。
春らしい日が続いたかと思えば、まだ少し肌寒さを感じる日もあり、
器を手にする時間がいっそう心地よく感じられる頃ですね。
さて、本日は、益子陶芸美術館で開催されております、
金重有邦先生の展覧会「土のコトダマ」についてご紹介いたします。
有邦先生は皆さんご存知の通り、備前焼だけにとどまらず、
白磁や唐津など、様々な土と向き合ってこられた作家であり、
手掛けられた作品も食器や茶碗、水指から近年発表された大型の陶塔に至るまで、実に幅広いものがあります。
今回の展覧会では、この10年間に制作された作品を中心に、最新作を含む約70点が紹介されているとのことで、
まさに2000年以降の有邦先生の集大成といえる内容になっております。
特に、有邦先生の茶陶、とりわけ茶碗に対するさまざまなアプローチが、
分かりやすく時系列順に並べられている点は、大きな見どころではないでしょうか。
2000年からの作品の変遷をたどることで、単に作風の違いを見るだけではなく、
先生が長い時間をかけて何を求め、何を捨ててこられたのか、
これまでの歩みそのものに触れられる展覧会のように思います。
この展覧会の紹介を拝見して、私が有邦先生と初めてお会いした頃のお言葉を思い出しました。
「田土はなぁ、ほんまに怖いんよ。考えとることが指を通して全部作品にあらわれるんじゃ」
田土という素材は、最高の素材ゆえに作り手の内面までも映し出してしまうのだと教えていただきました。
特に今回の展覧会の茶碗の作風の変遷を見ていくと、ご自身の中にある人間らしいエゴであったり、
作陶に不要な感情であったり、そうしたものが少しずつ削ぎ落とされていったようにも感じられます。
そして、削ぎ落として、削ぎ落として、それでもなお残ったものこそが、
最高の素材である田土を経由してついに魂を揺さぶる器へと成ったのだと思いました。






今回あわせてご紹介したいのが、当店で取り扱っております金重有邦先生の伊部茶碗「千秋」です。
本作は2022年頃に制作された作品で、現在の伊部茶碗制作の流れのちょうど中間点に位置します。
備前土らしい茶褐色を基調としながら、その中からは、まるで秋の夕日のような茜色が静かに滲み出しており、
非常に奥行きのある色合いとなっています。
華やかに色が沸き立つというよりも、土の奥からじんわりと色が浮かび上がってくるような趣があり、
お抹茶の緑と合わさると、まるで春と秋を同時に楽しんでいるかのような気分になる贅沢なお茶碗です。
一見すると非常に簡潔で静かなシルエットのお茶碗ですが、
その姿に至るまでには多くの時間が掛けられております。
轆轤で立ち上げた後、指先で何度も撫でるように、ゆっくりと形を整えていくことで、
器面には無数の細かな土の揺らぎが生まれています。
その肌合いは、まるで長い歳月を経た古木の肌を見るような、
濃密な存在感のあるものとなっております。
また、外側の濃密な土肌に対して、内側はまるで凪のように静かで、
土がやわらかく揺蕩っているように見えます。
その静かな見込みと、鋭く研ぎ澄まされた口縁が相まって、
お抹茶を腹の底へとまっすぐに落としてくれるような感覚があります。
さらに、本作の自作銘は「千秋」となっており、
秋の夕暮れを思わせるこの茶碗の美しい色合いとともに、
この作品が成り立つまでに有邦先生が歩んでこられた時間の長さ、
その積み重ねまでも感じさせる大変印象的な銘ではないでしょうか。
【展覧会情報】
金重有邦 土のコトダマ
会期:2026年3月8日(日)~5月17日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、5月7日(木)
※5月5日(火)は開館
会場:益子陶芸美術館
住所:栃木県芳賀郡益子町益子3021
TEL:0285-72-7555
Web:www.mashiko-museum.jp
【作品情報】
作品名:金重有邦 伊部茶碗「千秋」
サイズ:径12.5cm × 12.3cm × 高さ9.7cm
価格:330,000円
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