備前市の北に位置する和気町南山方にて作陶をされている多久周作先生。
多久工房と呼ばれる窯と作業場は標高約400メートルの山頂部りんご園に併設されています。
自然しかないと言っても過言ではないほどに緑豊かな場所に身を投じ、やきものと向き合っておられます。
今回が周作先生との初めての出会いとなりますので、作陶に対する思いや作品について色々とインタビューをさせて頂きました。
「多久周作 作陶展」を開催するにあたって周作先生が厳選された作品と共に「多久周作」という魅力的な人物に触れて頂ければ幸いです。(作品掲載5月1日19:00~)
工房周辺には豊かな自然が広がります
まず最初にお聞きしたいのですが、作家を志したのはいつですか?
「高校を卒業してからです。
有田の窯業大学校に通っていた時に自然と何が美しいかとか探しながら見てきました。
最初は魯山人が好きで大学時代に赤絵とか模写をしていました。
模写を沢山してきて、真似できないもの、薪で焚くということに興味が湧いてきて、一品ものというか、より高いレベルの器をつくりたいと思いました。
備前は筆で掛けない絵を火や藁が描くというか、色合いは土で違うとか結果は作家も分からない事があったり、そこが不思議で、備前に対する思いが強くなっていきました。
離れてみて備前の魅力を再認識しました。」
それから父親である多久守先生に師事されたのですね。
「父の下で5年間修行しました。
父親も初代でよくずっと挑戦し続けているなと思っています。
始めた頃は弟や妹もまだ学生だったし、父親の看板が輝くように、父を支えるために早く恩返しをしないといけないという思いでした。
尊敬している人でもありライバルでもあります。」普段の生活の中でお父さんの影響とかは何かありますか?
「父が良いやきものを出すと腹が立ってきますね。
なぜこれが出来たのか聞かなくても父親よりも分かるんです。
僕がなぜ出来ていないかも分かる。」父より受け継いだ登り窯
つくる時に何か考えている事はありますか?
「悔しいことや辛いこと、孤独だったり、経済的苦しみ、それを踏まえてものづくりだと思っています。
楽観的にならないように逃げないように頭の中で辛いことは十分噛み締めながらシビアな気持ちで。
それがプロだと思っています。 」無心ではなく様々な事を考えながら作陶されているのですね。
「作陶している時は様々な気持ちが横切ります。
例えば土が採れた場所とか土を採った時の楽しさとかそういう情景が浮かんできます。
枯れ葉の上をカサカサと歩いた秋の情景や春に筍を見たらお茶はこういう急須や湯呑で飲みたいとか情緒的なことを思います。
季節が僕にとって一番の作陶を左右するものです。
季節を食べたいというか、いかに季節感のある器として食材が映えるかということです。」工房の展示場
四季折々の情景が自分のとりまく環境の中で駆け巡るのですね。
それを形にしてその季節を捕まえるような気持ちでものをつくられているのですね。「自然が与えてくれたものでこんなに気持ち良く薪が運べたり、ビールが呑めたり、こんなに自然を感じる職業はないと思っています。
備前は素材が自然のもの以外ないですから自然に身を投じているのと一緒ですね。
究極的な備前の言い方をすると自然を感じるために備前焼の工程とかあるんじゃないかと思っています。」
燃料となる薪
薪割り前の丸太
自分の作品のここを見て欲しいといったものはありますか?
「選択肢がまだ少ないから自分の売りは今焼けたもの、がベストだと思っています。」
進化している途上の一番先端を出していきます。という感じですね。
選択肢が少ないというのは若い人らしいいいことでもありますね。
色んな場面や瞬間で感じる事があって経験値が増えて選択肢が出てくるのでしょうから、逆に言えばこれから増える余地がありますからどんな広がり方をするのか楽しみですね。
「備前は窯と土に恵まれているから、独自性は窯と土で凄く左右されたりするのが良さだと思います。
自分から生じる個性や独自性は少し持たせるだけで、窯と土こそ独自性があるので、その総合力で作品が生まれるところがすごいと思っています。」自分プラス窯と土の共同作業という感じですね。
「備前の土に対しては姿や形を変えて成熟した技法に変化しているのではないかと自分で感じています。」
それはどういう意味ですか?
「例えば昔は土の科学的な成分表とかないですし、焼成の温度管理の考え方もいわゆる遠い昔からずっと姿かたちを変えて、科学的になっているのではなくてそれも含めて成熟して過去から連なってきた一つのものが現代作家の作品だと思います。」
土そのもののヒストリーというか土自体が過去から連綿と続いてきた大きなうねりの中の一つの文化であるということですね。
多くの種類の土を保管されています。
工房周辺の長閑な風景
「より良いものをつくる為に備前焼自体が進化しているのではないかと思います。
備前焼の何が進化するのか、その定規は一つだけじゃなく十人十色です。作家が土味を選ぶのは例えばワインと一緒で、頃合いというか多種多様な好みや味わいを見分けて提出するのと同じように思います。風情や情緒を説明する立場なので僕は季節を表現したいということが全てです。」
大きなうねりの中でソムリエのように、これはどうですかと切り取って出すような感じですね。
最後にやきもの以外で何か興味があることはありますか?
「数年間ずっと茶道をしていて、茶道をしたから食に対して興味が湧きました。
夏の朝茶が弟子時代の思い出の一つで、朝5時ぐらいに冷酒を呑んで山のもの海のものおかゆなど茶懐石フルコース頂いて抹茶を頂く。
その時に備前焼の使い方、やきものの見せ方、おもてなしに非常に感動しました。
食べ物って大事なんだな、盛り付けも大事なんだなとか学ばせてもらって食や器に対する興味が強くなりました。
それが僕の作家としての入り口でもあります。
今回出品させて頂いた茶碗は仕事も商売も抜きに僕が飲みたい茶碗をつくらせて頂きました。
今回の個展を開催するにあたって僕のベストの作品をお持ちしたのでぜひお越し下さい。」
今回訪問させて頂いた多久工房の敷地内には「研究窯」なる穴窯が一基あります。
その窯では陶芸教室の生徒の方や近隣の住民の方が共同で窯焚きをされているそうです。
現在は周作先生も一人のアマチュアとして窯焚きに参加されています。
勿論参加当初は「プロ意識」なるものも心中にはあったそうですが、
その窯で焼き上げた大皿が見事自身初となる入賞を果たし、
改めて陶芸の楽しさや人と人との繋がりを強く意識するきっかけとなったそうです。
今回お話させて頂き、そうした経験からか周作先生を通して人の営みの雄大さを強く感じました。
大切な家族、人の営み、自然、四季折々の情緒、備前焼という文化、りんご園の出会い
無限に膨らみ続ける営みの中で生まれてくる小さな感動が作品の種となって、
大きな果樹園の中で小さなりんごが実るように、作品が紡ぎ出されているのだと実感しました。(5月1日より店頭でも作品を販売しておりますので、店頭にて作品が売り切れとなる場合がございます、予めご了承下さいませ。)