陶房の月 森本良信と語らう 第一弾

森本良信。
自我を無意識に略奪され、喪失する世界
その中において彼は「個」を持っている
「個」とは「故」であり「呼」であり「虚」であり「誇」であり
そして「己」である
固の本質を備えながらも、虚のように無限に揺らいでいる
それは無限の変化を生み出し「しんか」する性質を持っている
「こ」である。

と、いきなり変な文章から始まってしまいました。
実はこれは僕の友人のY・T氏が森本良信さんについて書いたものです。
僕自身よく意味が分かりませんが、インタビュー記事を載せるとの事を話すと
是非載せてくれということで冒頭に書きました。

さて、今回はその森本良信さんのインタビュー記事を書こうと思います。
いつも工房にお邪魔させて頂いて、貴重なお話や笑い話等を聞かせて頂いてますが、
インタビューという事で、またもや緊張してしまいました。
では長編(5時間分を凝縮)になりますが、宜しくお願いします。

僕「どうも。じゃあ早速アメリカで感じた事等を教えてもらえますか?」

森本良信(以下 良)「どうも。アメリカって言っても僕が言ったのはニューヨークなんですよ。
で、感じたのが日本に『美術』つまりアートは無かったんじゃないかなって。」

僕「えぇ?!それはまた衝撃的な発言ですねぇ。一体どういう事なんですか?」

良「衝撃的な発言ですか(笑)いやねー、無いんですよ本当に。宗教が無いから。」

僕「宗教ですか。」

良「元々美術は宗教から始まったんですよね。キリスト教だったらキリストの絵があって、宗教美術があって拝むとか鑑賞するっていう。日本にはねー、そういうのが無いんですよ。」

僕「日本には無い…。」

良「神様っていう概念が無いから、日本のは暮らしありきですからね。」

僕「そうですよね。用の美って言葉とかありますよね。」

良「うん。使えるものじゃないとっていうのかな。書なんかも、使うものじゃないですか。焼物も使うものだし。水墨画もそうなんですよ。」

僕「そうですね。水墨画のみ見るってよりも部屋全体の一部って感じがありますね。」

良「そうそう。部屋というパーツの一部って感じですね。で、想像するんですよ。『あ、俺山ン中いるわ』って。そういう風に暮らしを豊かにするものなんですよ。ホント暮らしありきですよ。」

僕「なるほど。西洋はどうなんですか?」

良「西洋は神様ありき。暮らしとはまた全然違う、独立した孤高の世界なんですよ。浮世絵とかは日本の美術じゃないのって言われますけど、当時はスターのピンナップ写真みたいな認識ですよ。」

僕「ブロマイドとかですね。」

良「うん。当時はアートとしてやってないと思うんですよ。で、外国の人が見出した。『あ、日本って凄い』って。」

僕「そうですね。僕の知り合いのOさんもそう言ってましたよ。」

良「そうなんですか(笑)でも日本はねー、ホント暮らしありき。向こうは絵だったらホントの絵なんですよね。全然違うんですよ。」

僕「確かにそう言われると、西洋の絵は暮らしとかとは別次元ですよね。」

良「うん。日本人が『私達の国の美術って凄いでしょ』って海外に持って行ったのって、岡倉天心とかですからそんなに昔じゃないっていうか。」

僕「なるほど。」

良「だからそこら辺から感覚的に違うんですよね。日本は絶対使うものだし、海外の絵とかは虚構の世界っていうか天の世界だから。」

僕「そうですね。海外の絵って『使う』のは無理ですよね。日本は使う事に対して凄いありますね。見立て使いとか。お客さんも『これは使えんからなー』とか言いますもん。」

良「うん。で、思ったのが重点をどこに置くかなんですよ。『日本』か『西洋』か。」

僕「そうなりますよね。そこはどう考えてるんですか?」

良「うーん、アメリカだけでも駄目だと思うし、日本だけでも駄目だと思う。重点を『用』に置くのか、『美』に置くのかは上手くバランス取って切り替えていこうと思う。」

僕「なるほど。」

良「でも人間だから全く逆の事は難しいけど、ある程度バランスとって行ったり来たりでやろうかと。」

僕「上手くバランス取ってが良いですね。じゃあ逆に日本の良さで再認識したのってなんですか?」

と、今回はここまでです。次回は日本の視点からをテーマに書こうと思います。
改めて読み返してみると、冒頭の詞の意味がなんとなく分かってきたような気がします。
「核」となるものを持ちながら、それを本質を失う事無く変化させる。
それが凄く森本良信さんらしいと思います。
ちなみに今回の写真はアトリエのロクロ周辺の写真です。
柔らかな光が独特の雰囲気を作り出す素敵な場所です。
窯場等に使用するライトが照明として使用されており、タイトルの陶房の月の元となりました。
それでは今日はこの辺で。

[ 陶房の月 森本良信と語らう 第一弾 ]陶芸家に会う2006/09/30 03:02